不登校のそうた君が打ち明けてくれたこと
中学2年生の息子さんが不登校になったと言うことで、ご相談にいらっしゃったお母さんがいました。前の年にご主人が亡くなり、今度は息子さんが不登校になったと言うことで、とても困られている様子でした。でも元々は明るくて優しいお子さんだったそうです。
そんなお子さんが学校にも行かず、家でも乱暴な言葉でお母さんを攻撃すると言う話を聞いて、それはきっと彼の寂しさの裏返しなんじゃないかなと思いました。
そんな息子のそうた君が、ある日曜日お母さんに連れられて私の事務所にやってきました。そうた君と2人だけで話すため、お母さんには先に帰ってもらいました。
「おはようございます。そうた君、どうぞ椅子におかけください。」
私がそう言うと、彼はどすんと腰を下ろし足を組んで腕組みをして、私に背を向けて座りました。
「あのな、お前になんか絶対何も喋らないからな!」
「俺は学校のセンコーにだってカウンセラーにだって、お前らと話すことなんかねえんだ!うるせえ...」
と言って何も話さなかった。
「お前にも何も話さねえからな!」と背を向けたまま、そうた君は言いました。彼は何に怒っていて、何にこんなに悲しんでるんだろう? とにかく彼の気持ちが知りたいと思いました。
行動や言葉は表面上のことですから、私はそれを問題視しません。私がいつも知りたいと思うのは、その人の心の奥底にある気持ちの部分です。人が行動するときには、必ずその裏に理由があります。その理由は、社会的に許されないようなことであったとしても、その人にとってはすごく重要な理由だったりするのです。
私はそうた君に
「いきなり知らない人のところに来て、話しなさいって言われても無理だよね。話したくなかったら話さなくていいからね!」と本当にそう思いながら言いました。
不思議なのですが、話して欲しいと思いながら話さなくていいと言った時と、本当に話さなくていいと思いながら言った時とでは、相手の反応は全く違います。人ってやっぱり目に見えない人の気持ちと言うものを、ちゃんと感じているんだなと思います。
彼は、しばらく黙っていました。せっかく来てくれたのに何も言わないのも苦痛だろうと思ったので、「朝ご飯食べてきた?何時に起きたの?」と彼に簡単な質問をしました。
「早い時間に起きた...」と彼はぶっきらぼうに答えてくれたので、私が「偉いね」と言うと「これがあったから早く起こされたんだよ...」と不満そうに言いました。
「確かにそうだね、ありがとうね」なんて言いながら彼が話しやすい話題を探しました。
今日はここに来なかったら彼は何をしようと思っていたんだろう?と思ったのでそのことについて聞きました。
すると彼は「ゲーム...」と答えました。
「どんなゲームしてるの」と聞くと、彼はわざわざスマートフォンを開いて、ゲームの画面を私に見せ「これだよ!」と言いました。
この時そうた君が少し心を開いてくれたなと感じました。
「へ〜!どのキャラクターが好きなの?このキャラクターのどう言うところが好きなの?」とか1時間ぐらいゲームについて聞きました。
それまでずっと楽しそうに話をしていたそうた君が、ある時急に黙りました。見ると彼は何か思いを馳せてるように感じたので、私は黙って見守りました。
すると彼は「俺の父さん死んだんだ...俺が殺した!俺が悪いんだ!」と言うのです。
「どうして?」と私は聞きました。
「俺のお父さんすごく口うるさくて、ゲームやってる暇があったら勉強しろとか、妹の面倒見ろとか、もっと家のことを手伝いって、いつも怒って怒鳴ってばかりだったよ...」
「だから俺、うるせえ!うるせえ!いつも思ってた。心の中で早く死ねばいいのにといつも思ってた...」
彼はお父さんが亡くなる直前、お父さんと喧嘩をしたそうです。そうしたらお父さんが突然死んでしまった。だから彼は自分のせいで父さんは死んだと思ってしまったのです。その罪に苦しみ、父さんを殺した自分は幸せになっちゃいけない、笑っちゃいけない、楽しんでもいけない、父さんのために自分は罪を償わなきゃいけないと、ずっと彼は自分を責めていたのです。
自分はベッドで寝ちゃいけない、父さんはあんな床の上で亡くなったのだからと思いながら、夜ベッドから起き、お父さんのことをまた考えて、辛いのでゲームにふけるわけです。
ゲームをしながらもずっと、父さんはもっと生きたかっただろうし、もっといろんなものを見たかったはず。でも俺が殺しちゃった、俺のせいで父さんやりたいこともできずに、人生終わらせてしまったと思っていたと言うのです。
話しながら彼はずっと泣いていました。私はそこで彼を慰めたり励ましたりするのは、きっと違うだろうなと思いました。とにかく今は、彼の胸に溜まったものを全て吐き出せてあげることが、大事なんだろうと思ったのです。だから私は泣き続けるからの背中をさすりながら「そうだったの、そうだったの...」とずっと彼の話を聞きました。
しばらくすると話が途切れ、彼が少し落ち着いてきたのが分かりました。そうた君の話を聞きながら、彼がそんな風に考えることを亡くなったお父さんは絶対望んでいないと思いました。
でも、私が言っても彼は多分納得しないだろうと思いました。
そこで「そうた君、お父さんはそうた君がどんなことをしてる時が一番嬉しそうだった?」と聞きました。「自分が楽しく笑っている時...」と彼は答えてくれました。
そしてすぐにハッとして「そっか、俺、父さんのためにも幸せで笑顔で元気でいなきゃならないんだ!」と自分自身で気づいてくれたのです。
「そうだね、その方がきっとお父さんは喜ぶよね!」と言うと、彼は「でも死んでるのに伝わるかな?」と言いました。だから私も「私のお父さんも、私が嬉しそうにしてるのをすごく喜んでくれたよ。だからきっと今でもお父さんは空から私のことを見てくれて、私が幸せそうにしているのをお父さんは喜んでくれてるだろうって、私は信じてるんだよね...」と言いました。
すると彼は「俺もそう信じる、だから俺も元気に幸せになる。実はね行きたいと思っている学校があるんだ。でもずっと不登校で学校行ってなかったから、多分無理だろうな...」と言いました。
「本当にそうなの?本当に無理なの?」と、私は言いました。
「無理じゃないの...」と彼が言うので、「わかんないけど本当に無理なの?」とまた言いました。すると彼は「調べたら何か方法があるかもしれない」と言いました。
「そうだよ、先生やいろんな人に相談したら何かわかるかもしれないよ!」と言うと、彼は「うん俺、調べてみる!」と言ってくれました。
その頃には、彼はニコニコ笑うようになっていました。その頃、お母さんがそうた君を迎えにやってきました。お母さんは明るく笑顔でしゃべるそうた君を見て、ポロポロ涙を流しました。本当に嬉しそうに彼に思わず抱きつきました。すると彼もちょっと照れくさそうに「お母さんごめんね...」と言いました。お母さんは「そうた、そうた...」と彼の名前を何度も呼びました。「笑ってる、笑ってる!」と嬉しそうに言いながら、そして3人でポロポロ泣きました。
帰り際、お母さんは「明るいそうたに戻してくれてありがとうございます」と言いました。そうた君も「帰ったら調べて行きたい学校に行く!夢を叶えるから見てて!!」と言いました。
彼はその後、学校に行き先生に相談しました。先生はとてもびっくりされたみたいです。それまで何を言っても拒否し続けていた彼が、行きたい学校がどうしたら行けるかと相談に来たからです。志望校への進学はとても難しい状況でした。でも合格の可能性があると知ったそうた君は、死に物狂いで努力し見事志望校に合格しました。
実はそうた君が私の事務所から帰る時、俺の友達も不登校で苦しんでるから会ってほしいと言いました。「いいよ、彼は会えるの?」と私が言うと、彼はその場でお友達に連絡し、会う日を決めました。
待ち合わせは、彼らの家の近くにあるドーナツ屋さんでした。先に私がお店について外を眺めていると、そうた君が嬉しそうにやってきました。そしてその後ろにすごく嫌そうに自転車を押しながらやってくるお友達がいました。私は窓ガラス越しにそれを見ながら、相当嫌なのに来てくれたんだなと思いました。
そうた君は楽しそうにお店に入ってきてお友達を紹介してくれました。でもお友達の方は渋々「よろしくお願いします...」みたいな感じでした。お友達の名前はたいち君でした。
ご馳走してあげると、私が言うとたいち君は少し明るい表情になり、ジュースとドーナツを何個か買って私の前に座りました。何気ない話をしばらくした後「たいち君、学校のことを聞いてもいい?」と言いました。たいち君は「うん...」と言ってくれました。
学校のクラスの友達についても楽しそうに話をし、部活もすごく楽しいし大好きと話してくれました。だから私は「たいち君は本当は学校に行きたいんじゃない?」と聞きました。たいち君は「うん...」と言いました。でも「行ってないんだよね」と言うと、また「うん...」
その後、私はしばらく黙っていると、たいち君は「おふくろとおやじが俺のフィギュアを捨てたんだ...」と言いました。
「あいつらの部屋だって汚いくせに、俺の部屋を片付けろ!ってすっげえうざいから無視した」
「学校に行って帰ってきたら、俺の大事なフィギュアが捨てられてた。これ以上捨てられたら困るから俺は、学校には行かない」と言いました。
「そんなことがあったんだ、学校に行けてフィギュアも捨てられない方法ってないのかな?」と私が言うと彼は「う〜...」としばらく考えました。
そして「あっ!自分の部屋を掃除すればいいんだ!俺、今から帰って掃除して明日から学校行く!」と言うんです。
横で話を聞いていたそうた君が「俺も手伝う!」と言いました。2人はドーナツを口に一気に詰め込みジュースを飲み干し、急いで帰っていきました。片付いた部屋をご両親が見て「何があったんだ!あんなに言っても片付けなかったのに...」ととても驚いたそうです。
次の日から学校に行ったたいち君は「俺もそうたと同じ高校に行きたい、間に合うかな?」と言いました。
「大丈夫!俺がいろいろ教えてやる。お前絶対行けるから一緒に行くぞ!」と言いました。そして彼らは2人とも同じ高校に合格し、今楽しく高校生活を送っています。
2人のこのエピソードから感じるのは、言葉として表現されてることが全てじゃないと言うことです。たいち君の場合、大人の立場からすると、フィギュアを捨てられたくらいで学校に行かないなんてと思います。でもたいち君にとって、それはすごく大事なもので何より守りたいものなんです。
だから子供がもしフィギュアを大事に思っているなら、その大切なフィギュア、親も一緒に大切にしてあげてほしいのです。どうしたらその大切なものを守れるのかを一緒に考えてあげて欲しいのです。
後日たいち君から詳しく話を聞くと、頭ごなしに親御さんから怒られ、あげくの果てに、フィギュアを捨てられてしまったので、親には不信感しかなかったそうです。たいち君は「あいつら2人して片付けろ、片付けろ!って言うけど、あいつらの部屋もだいぶ汚い!」と何度も言いました。
子供は大人のことをよく見て冷静に判断しています。
相手が大切にしてるものを大切にすることの大切さを、私は改めて彼らから教えてもらいました。
いかがでしたか。
今朝。崔燎平先生のYouTubeで、日本講演新聞の水谷編集長のことを話をされてました。たまたま私の手元に昨日受け取った日本講演新聞がありました。今朝は、この日本講演新聞の中に書いてあるお話を読ませていただこうと思いまして、朗読のような形でお伝えさせて頂きましたが、いかがでしたか。
もしかしたら、気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、このお話は坪崎美佐緒さんが、講演にてお話をしてくださったメッセージです。薩摩(菩薩)のように寄り添う心で、不登校のそうた君が打ち明けてくれたこと。
相手が最も大事にしてるもの、相手が大切にしてるものをいかに大切にするのか。それを今回も教えてくれてますね。
私も小学校2年生の時に登校拒否で75日間学校を休みました。周りから見ると”そんなこと?”と思うかもしれませんが、子供にとっては自分の心が傷ついた出来事は、やっぱり忘れられないことでもあるんですね。
私の場合は一生懸命やった宿題に対して先生が笑ったことです。ものすごく傷つきました。だから子供が一生懸命やってることに対して、大人は無責任に笑ってはならない。もちろん大人から見るとバカバカしく見えることかもしれませんが、子供にとってみれば、それはものすごく大切なことであり、仮に間違えた課題を繰り返し行ってたとしても、きっと先生に褒められたかった。それが期待とは逆で先生から笑われてしまった。感受性豊かな私はものすごく傷つきました。そして75日間学校休みました。不登校になるには何か理由があるんです。その理由はどこにあるのか?坪崎美佐緒さんのように相手の心を受け入れる、相手の心を抱きしめる、そんな感性があれば、もしかしたら不登校の子供たちも学校に行くのかもしれませんね。
待てること、しっかり相手の話を聞けること、いろんな気付き、学びがあったんではないかなと思います。
どうぞ、参考にしてみてください。
ありがとうございます。坪崎美佐緒さんをご紹介してくださり、今目の前にいる人が大切な人、この書籍を書くことをサポートしてくださった大久保寛司先生、プロデュースしてくださった大久保寛司先生、心からお礼を申し上げます。