「誠実」とは言・行の一致。前章では「正直」と言うものが、我々人間の社会的生活が成り立つ上での、いわば土台になっている点について申したわけであります。 ところで、ここには誠実と言う徳について考えてみたいと思うのです。それと申しますのも「正直」と「誠実」とは非常によく似た徳のように思われますが、しかしだからと言って「正直」と「誠実」とは全く同じものだとは言えないからであります。 では「正直」と「誠実」とは一体どう違うと言うのでしょうか。こう言う点をはっきりつかんでいると言うことは、我々人間にとって非常に大事な事柄かと思われます。 というところで考えてみますに、「正直」と言うことは、主として言葉に関わることが多くて、例えば自分のしたことについて人から尋ねられた場合、いかに言いにくくても事実をありのままに言うと言うことです。 一方、誠実となると、もちろん言うべきことをありのままに言う場合も、決してないわけではありませんが、しかしより重大な点は自分の言ったことをいかに辛くても、言った通りに行うと言うことなのであります。それどころか、自分のなすべき事柄については、たとえ他人がそれを見ていようがいまいが、終始一貫して成し遂げると言うことであります。 すなわち、そこには 言・行の一致 と言うことの他に、さらに一貫持続と言うことさえ含まれているわけであります。同時に、それゆえにこそこの誠実の徳は多くの人々の心を打ち、かつ多くの人々から尊敬せられる所以であります。 このように考えてきますと誠実な人と言うのはもちろん、「正直」の徳を持っているわけですが、単にそれだけではなくて、広くあらゆる事柄をも包括していると考えて良いでしょう。 つまりあらゆる事柄に対して、その人の 言・行 に表裏がなく、常に自己の 言・行 の上にできるだけ、ずれを生じないような努力を惜しまぬ人柄をさして、私たちは誠実な人と言ってるようであります。 このように「誠実」の徳の中には、「正直」の徳も含まれているとしたら、あえて「正直」について、徳目を立てる必要はないではないかと、思う人もあるかと思われます。しかし「正直」と言う徳は前にも申したように、人間としての再基盤的なものですから、徳目の一つとしてどうしても見逃すわけにはまいらなどであります。 言わんや、今日の日本のように、ともすれば「正直」と言う大事な徳を...
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