今日は、Voicyでここ最近、朗読をしてないが故に、友人に「何かエピソードを送ってもらえませんか?」っていうことをお願いしたら、1つ送ってくれました。
それを私の声で読ませていただきますね。ぜひお付き合いください。
タイトルは『傘を差し出したその手の記憶』。
『傘を差し出したその手の記憶』、読ませていただきます。
あの日の雨は、どこか特別な重さがありました。
季節は冬に差し掛かる手前。
濡れたコートのほうが冷たくって、足元からじんわりと寒さがにじみ込んでくる、そんな日でした。
帰り道の駅へと続く階段を急ぎながら、私は足元ばかりを見て歩いていました。
冷たい雨にうんざりしながら、ただ早く家に帰りたい、それだけを考えていたんです。
ですが、階段の一番下、そこにポツンと立ち尽くしてる人がいました。
高校生くらいの男の子。
傘もささずに制服をずぶ濡れにして、ただ黙って立っていたんです。
その姿があまりにも静かで、あまりにも寂しそうで、気づけば私は立ち止まっていました。
通り過ぎようと思えばできたんです。
実際、周りの人たちは誰も彼に声をかけませんでした。
見て見ぬふりをするように、みんな足早に歩き去っていきました。
けれど、私はどうしてもその場を離れることができなかったのです。
胸の奥が、きゅっと締め付けられるような感覚。
迷いました。
声をかけるべきか、それともこのまま行くべきか。
ほんの数秒間の葛藤。
でも、心が先に動いていました。
私は自分の傘を彼に差し出しました。
「よかったら、これ使って。私はこっち、折りたたみ持ってるから」
本当は持っていませんでした。
ですが、その時とっさに出てきたのは、彼に気を使わせたくないという気持ちでした。
「彼にごめんなさい」と思わせたくない、そんな気持ち。
ただ、それだけでした。
彼は驚いた表情を浮かべ、しばらく私の顔を見ていました。
それから、恐る恐る手を伸ばして傘を受け取り、「ありがとう、本当にありがとう」と、何度も何度も頭を下げてくれたのです。
私はそれ以上何も言わず、その場を離れました。
濡れるのは分かっていたけれど、なぜか寒さは感じませんでした。
むしろ、心の奥がポワンと暖かくなったのを覚えています。
それから数年後のことです。
ある講演会の受付で、1人の青年がにこやかに私を迎えてくれました。
その笑顔にはどこか見覚えがあって、でも思い出せない、そんな感覚でした。
「こんにちは。どうしても、ご挨拶をさせてください」。
そう言って、彼は続けました。
「高校生の時、雨の中で傘をくれた女性、あなたですよね?」
その一言で、全身に電流が走ったような感覚がありました。
記憶の扉が開き、あの日の冷たい雨と、あの少年の姿が蘇ってきたのです。
「本当に嬉しかったんです。あの時、僕は学校で大きな問題を抱えていて、誰にも頼れず、泣きたいのに泣けなくって、ただあそこに立っていたんです。」
「誰も気づいてくれなかった。でも、あなたは気づいてくれた。何も聞かず、ただ傘を差し出してくれた。あの優しさが、ずっと心に残っていました。」
私は言葉が出ませんでした。
ただ、ただ、胸がいっぱいになりました。
彼はこう続けました。
「その出来事をきっかけに、人の心に寄り添う仕事をしたいと思ったんです。今は心理カウンセラーとして働いています。」
一瞬の出会いが、誰かの人生を変えることがある。見返りも、名前も、連絡先もいらない。ただ差し出したその手が、誰かの未来に明かりを灯すことがある。
あの時の傘は、雨を防ぐだけじゃなかった。彼の心に小さな希望を残す、贈り物になったんです。
人を助けた瞬間は、ほんのちょっとの、ほんの一瞬の小さな出来事かもしれませんね。
ですが、その優しさは誰かの中で何年も、何十年も生き続ける。
もしかすると、あなたの何気ない言葉や行動も、今この瞬間、誰かの心を救ってるのかもしれません。
そのことに、私たちは気づいていないだけで。
だからこそ、私は改めて思います。
優しさは巡るもの。
見えないリレーのように、静かに、でも確かに誰かに手渡されていく。
それこそが、まさに出会いの軌跡。
Voicyリスナーの皆さま、今日もお聞きくださり、ありがとうございます。
優しさ、思いやりとは、相手のために時間を使うこと。
相手のために何ができるか、そんなことを考えながら行動できるといいですね。
一差しの優しさが巡り巡って、心の深いところでつながっていく。
そんな奇跡のお話を、今日はお届けさせていただきました。
人助け、いいですね。友人にも感謝したいと思います。
久しぶりに、朗読のような形でお話をさせていただきました。
心がポワンと暖かくなるような感覚になったら、ありがたいです。
晴れ女を自負してる私は、ほとんど雨に当たることはないんですが、たまたま急に雨が降り出した瞬間、「いや、どうしよう」と思いながら信号待ちで、もうすごい雨だったんですね。
それを私が手で雨をこうやって、手で覆ったところで、全然何のプラスにもならないんですが、その時、信号待ちでスッと透明の傘を私の頭のところにかけてくださった男性がいました。
「せめて、信号待ちの間だけでも」と。
嬉しいお言葉ですよね。
そういう機転の利くこと、気の利く人、優しい人。
そういう優しさが伝播していくと、この国はさらにもっともっと平和になりますよね。
世界中が平和になりますよね。
ほんのちょっとの優しさ、ほんのちょっとの言葉の選び方、ほんのちょっとの所作、しぐさによって、相手がなんか心があったまったり、いや〜んありがたいとかって思えたり、この人素敵と思えるような、そんな連鎖が起こるといいですね。
ふと、思い出させていただきました。
素敵な方でしたね、その方も。