あるパチンコ店の話
一昔前まで多くのパチンコ店の経営スタイルは発展の歴史的経緯もあり「お客=お金を落としてくれる人」と言う考え方だったそうです。
ところが経営の世代交代とともに徐々に時代背景が変化し、最近では地域の皆が喜び、そして皆から愛されるパチンコ店を作ると言う考えのもとで、運営される店が現れてきました。これから紹介するのはそんなパチンコ店でのお話です。
その店には毎日通ってくるおじいちゃんがいました。彼は開店時刻になると必ず開店待ちの列に並んでいるのです。そしていつも入り口から少し離れた端っこの台に陣取りました。その台は常連の間で「おじいちゃんの台」と呼ばれるようになりました。
しかし、おじいちゃんはどちらかと言うと勝負事には向いていませんでした。勝率はかなり低くよく負けていたのです。
店側もおじいちゃんには勝ってほしいと思うのですが、こればかりは何ともなりません。しかも、おじいちゃんの台が解放題になった時に限って、おじいちゃんは若者に台取りで負けてしまうのです。それゆえ、おじいちゃんはやはりよく負けていました。
ところが、おじいちゃんはその日のお小遣いを使い尽くしても帰らないのです。ニコニコしていつまでも店にいます。店員さんと会話を交わすことを楽しみにしていたのでしょう。
ある日のことです。毎日来ていたおじいちゃんが姿を見せません。店員たちはどうしたのかな?風邪でも引いたのかな?などと思っていました。
ところが定時見回りの時、裏の駐車場をチェックしたスタッフが、倒れているおじいちゃんを発見したのです。寒い冬の朝の出来事でした。
スタッフはすぐに119番へ通報しました。おじいちゃんは救急車に担ぎ込まれ、多くのスタッフが心配そうにその救急車を取り囲みました。誰の目にもかなり危険な状態であると映りました。病院に担ぎ込まれたその数分後、おじいちゃんは心筋梗塞での死亡が確認されました。おじいちゃんの死亡の連絡を受けた店のスタッフは皆泣きました。そして口々に自分たちを責め始めたのです。
もう少し早く見回りをしていればよかった...
姿が見えない時におかしいとわかったはずなのに...
もう少し注意していたら、おじいちゃんを助けられたかもしれない...
しかし、亡くなったおじいちゃんが帰ってくるはずもありません。せめて最後のお別れだけはと店長をはじめ、スタッフは通夜と葬儀に参列したのです。
パチンコ店に1本の電話がかかってきたのは、葬儀が終わって1週間ほど経った時でした。おじいちゃんの息子さんからでした。話があるので、責任者に家まで来てほしいと言う内容でした。店長そしてスタッフたちはついに来たかと思いました。
それでなくとも店側の安全管理について批判の声が上がっていたのです。きっと責任を追及されるんだ!皆こう思いました。店長やスタッフたちは話し合った結果、何を言われても真摯に受け止めようと決めました。もちろん事件は多くの点で不可抗力だった。しかし私たちにできることがあったのも事実だ。
「未然に悲劇を防ぐことができなかった落ち度、素直に謝罪しようじゃないか」
みんな黙って頷き合いました。店長と責任者スタッフは菓子折を持ち、息子さんの自宅を訪問しました。
応接に通されて待っている間、何を言われるだろうかと考えると、不安な気分が襲ってきて落ち着きません。息子さんが入ってくると店長は頭を垂れて「申し訳ありません」と謝りました。ところが、それを見て息子さんは意外なことを言ったのです。
「何を謝ってらっしゃるんですか。今日あなた達にお越し頂いたのは、一言お礼を言いたかったからです。」
「本来なら私から出向くべきところですが、仕事の都合上、ご足労おかけして申し訳ないのはこちらなんです。」
「私の父は皆さん方に出会えて本当に幸せでした。父は毎日あなた方のお店に行き、時間を過ごすことをこの上ない喜びと感じておりました。」
「いつも晩御飯の時に父が話すのは、決まってあなた方のことでした。」
「〇〇ちゃんにおじいちゃん元気そうで何よりですね!と声をかけてもらったよ」
「今日は新人のスタッフがわしに自己紹介をしに来てくれた」
「〇〇さんからは相談を受け取る、彼のおじいちゃんのことじゃ!」
「そう言って楽しそうに話す父を見て私は思いました。父はあなた方のお店にパチンコをしに行ってるのではなく、皆さん方に会いに行ってるのだと。」
「父は仕事を引退するとすぐに老け込みました。何の趣味も持たず仕事一途に打ち込んできた父から仕事を取ると、もう何も残っていなかったのです。」
「本来ならそこで家族が父を支えるべきところです。しかし、足取りもおぼつかなく何度も同じことを話す父を、恥ずかしながら家族は疎ましく扱っていたと思います。でもあなたたちは違った。父に話しかけ、父を頼りにし、父を歓迎してくださった。父はあなたたちのおかげでこの上なく幸せな余生を過ごしたのです。」
「この世を去る時も、あなたたちのそばから旅立つことができて、幸せだったと確信しているのです。失礼ながらパチンコ店の方々に父がこれほどお世話になるとは、努々考えませんでした。」
「なんとお礼を言えばいいか分かりません。本当に本当にありがとうございました。」
そう言うと息子さんは深々と頭を下げたのです。
店長たちは店に帰ってこの話をスタッフ全員にしました。みんな泣きました。そして地域の皆が喜び、皆から愛されるパチンコ店を作ると言う理念が、少しずつ形になっていることを実感したのです。
この話はパチンコ店の研修をしている私の友人じいさんからお聞きした話です。そしてこの話には続きがありました。
ある日、その店にじいさんが研修の一環として、店内チェックに訪れました。その時、1人のおばあさんが近づいてきてこんなことを言ったのです。
「あなた、このお店の研修担当でしょ!スタッフのみんなが言ってたから知ってるのよ。」
「ねえ、この店のこの成績、いい点数つけてあげてよ!」
「みんなみんないい子なんだからね!ね!客の私が言うんだから間違いないわよ。だから、いい点数をつけてあげてよ!」
じいさんは苦笑しながらおばさんに尋ねました。
「でもこの店、他の店と比べてそんなに出玉がいいわけでもないでしょ?」
おばさんは空を見つめるようにしてこう答えました。
「確かにね、私もかなり負けてるわよ。でもね、パチンコなんて負ける確率の方が高いのは当たり前のこと。だったらどうせ負けるのなら私はこの店で負けたいのよ!」
「だってここのスタッフのみんなは、お客である私たちをとっても大切にしてくれる素晴らしい子ばかりだから!」
このパチンコ店には負けが混んで、乱暴な文句を吐くお客さんがいつしか寄り付かなくなりました。みんなニコニコ、この店を愛する人たちで今日も満員なのだそうです。
今日のお話はいかがでしたか?
もう読みながら何回も胸が詰まってしまって、途中で何回も止めました。鼻水も鼻もめちゃくちゃ出ましたって感じですが、皆様に思いが届けば嬉しいです。
今回のお話も、明日を生きる自分へのメッセージ「涙の数だけ大きくなれる」木下晴弘さんの書籍からの抜粋です。
この書籍の中にあるエピソード、素晴らしいメッセージです。前回は私の滋賀杏理からもらいましたが、私は即書籍を購入しました。
この本はフォレスト出版から出されてる本なんですね。私もフォレスト出版の太田社長から「コミュニケーションの教科書を書いてもらえませんか?」って言う嬉しいお言葉を頂き、書籍を出させて頂きました。信頼関係の作り方って言う本もフォレスト出版様から出させて頂いた本です。
私の本はほとんどが廃版となっておりますが、この木下晴弘さんの書籍、素敵な本ですね。皆様、今日の朗読はどのような書簡をお持ちになられましたか。心が温かくなる実話って本当に素敵なことですよね。この書籍が出されたのは2008年9月9日。あれから約15年近くなりますから、パチンコ店のあり方もさらに変化、進化してるのかもしれません。
素敵なエピソード、皆様のお役に立てればありがたいです。
老いていく両親を見ながら、いろんな気付き、いろんなことを感じさせて頂きました。
年を重ねていくといろんな機能が衰えていきますね。そんな中、人のことを絶対に悪く言ったことのない母が愚痴を言い出したり、人は老いると痴呆になったりすると、過去の未経験なことが浮上する。だからあの時あれをやっていればよかった!これをやっていればよかった!気になること、自分自身が未消化、未解決だったことが、年を重ねてそれが浮かんでくるって言う。それを母を通して感じることがありました。
無口だった父は、逆に人生後半ではいっぱい話すようになりました。話す言葉も、人生均せば皆同じで、最初の頃にいっぱい喋ってた人は人生後半で無口になり、逆に元々話さなかった人が、人生後半でたくさんおしゃべりになるのかもしれませんね。
それも年を重ねることによって、本当に見せてくれる姿は、いずれ私たちが行く道ですよね。
最初はあまりにも変わった母の姿、父のあり方に「なんで?」って思うようなこともありましたが、今、自分自身が年を重ね、いろんな機能が変わってきて、そして年を重ねていくことが、どう言うことなのかって言うことに気付きを得ることができたり、友が亡くなったり、本当に大切にしてくださった方々がこの世からいなくなったりして、また会いたいなと思っても会えないことをたくさん繰り返す中で、これまでいかに自分は支えられて、人に優しくしてもらって、生きてくれたのかなと言うことを、しみじみ感じている今日この頃です。
本日は、この後のコメントも最後までしっかりお聞きいただければなと思います。
この朗読を読む前にコメント返信を先にさせて頂きました。
皆様のお役に立てればと、一つずつのコメントに心を込めて毎回お話しさせて頂いておりますが、私のこのVoicy、リスナーの方々から頂いたコメント返信が、少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。