「先生、いずこにおられますでしょうか」
坂田道信 ハガキ道伝道者
月刊誌「致知」 特集楽天知命より
徳永先生は熊本県の歴史始まって以来、30代の若さで小学校の校長になられた方でした。が「教員の仕事は、教壇に立って教えることだ」と、5年で校長降り、自ら志願して一教員に戻った人でした。
だからどの学校に行っても、校長に煙たがられたと思われますね。それで2年ごとに学校を出されてしまうんだけど、行く先々で教師たちが一番敬遠している難しいクラスを受け持って、みんなお勉強好きに変えてしまうんです。
授業の前に児童たちが職員室へ迎えに来て、騎馬戦みたいに先生を担いで「わっしょい！わっしょい！」と教室に連れて行ったと言うんです。
「先生早く教えてくれ！」って。
先生は昼飯を食べない人でした。
なぜ食べないかと言うと、終戦直後、昼の時間になると、弁当を持って来られない子供たちがサーッと教室からいなくなる。それでヒョッと校庭を見たら、その子たちが遊んでいたんです。
その時から自分もピタッと昼飯を食べるのをやめて、その子たちと楽しい遊びをして過ごすようになりました。依頼昼飯はずっと食べない人生を送るんですよ、晩年になっても。
これは戦前の話ですが、
「明日は工作で切り出しナイフを使うから持っておいで」と言って児童達を帰したら、次の日の朝「先生、昨日買ったばかりのナイフが無くなりました」という子が現れました。
先生はどの子が取ったか分かるんですね。
それで全員外に出して遊ばせてるうちに、取ったと思われる子供の机を見たら、やっぱり持ち主の名前を削り取って布に包んで入っていた。
先生はすぐに学校の裏の文房具屋に走って同じナイフを買い、取られた子の机の中に入れておきました。
子供達が教室に帰ってきた時
「もう一度ナイフをよく探してごらん？」と言うと、
「先生ありました」と
そして「むやみに人を疑うもんじゃないぞ！」と言うんです。
その子は黙って涙を流して、先生を見ていたと言います。
それから時代が流れ戦時中です。
特攻隊が出陣する時、みんなお父さんお母さんに書くのに、たった一通、徳永先生宛の遺書があった。もちろんナイフを取った子です。
「先生ありがとうございました。あのナイフ事件以来、徳永先生のような人生を送りたいと思うようになりました。明日はお国のために飛び立ってきます。」
という書き出しで始まる遺書残すんです。
それからこんな話もあります。
先生が熊本の山間の過疎の教育をやられていた頃、両親がわからない子がおったんです。
暴れもんでねえ.....
とうとう大変な悪さをやらかした時、徳永先生は宿直の夜「君の精神を叩き直してやる」と言って、その子をぎゅっと抱いて寝てやるんですよ。
後に彼は会社経営で成功して、身寄りのないものを引き取って、立派に成長させては世の中に出していました。
自分の今があるのは、小学校4年生の時に、徳永康起先生に抱いて寝ていただいたのが始まりです。
「先生、いずこにおられますでしょうか」 という新聞広告を出して、40年ぶりに再会したなんていう物語もありました。
この前も私どもの主催した会で、教え子の横田さんという方に、想い出を話しいただきましたが、初めから終わりまでずっと泣いているんですよ。
定年退職された方だから、もう50年以上も前の想い出ですが、1時間ちょっとの間ずっと泣いている。その方の感性も素晴らしいですが、やはり徳永先生の教育がすごかったのでしょう。
致知さんの記事から、いかがでしたでしょうか。
私はこの記事を初めて読ませて頂いた際、涙が止まりませんでした。
忘れられない先生の存在。
子供の人生が先生との出会いによって変わる。
やはり子どもは正直です。
愛ある先生か否かも敏感にわかります。
私も昔小学校の教員をしていました。
その際に、明確なこだわりを持っていました。
それは落ちこぼれを絶対に作らないということ。
飲み込みが早いか遅いかで、お前はダメなこと言われてしまう。
「そんなバカな話はない！」と百点満点取るまでテストをやり続けた日々。
放課後に勉強を教え、それでも分からなかったら毎日家庭訪問をしながら子供たちを教えたあの時。
「能力には大差はない！飲み込みの早い遅いはあれど、根気よく指導すればみんなできるようになる！」と確信し、子供達と接していた日々。
今は、社会人教育を担当させて頂いておりますが、やはり大人の教育も子供の教育も同じだと思います。
真剣に体当たりに挑めば、必ず期待以上の反応が返ってきます。
縁ある上司が部下に対し、どのような想いで接するかによって、部下の未来も変わります。
人生の中で、心に深く残る先生との出会い。
恩師や師匠と呼べる人との出会いは、いったいどれくらいあるんだろうか？
まさに、今回この徳永先生のように、生徒の心にいついつまでも深く刻み込まれた教え。たった一人の恩師との巡り合いで、人生は変わるかもしれない。
今回はVoicyリスナーの皆様に、このお話をお伝えしたくてご紹介を決めました。
企業研修なので、この話を読ませていただくたんびに、自然と涙が溢れ出ました。
掲載してくださった致知出版社様に、心からのお礼を申し上げます。
「先生、いずこにおられますでしょうか」
いかがでしたでしょうか。
一人の先生、忘れられない先生とのご縁。
本当にその人の人生を大きく左右するほどの、影響力のある人のご縁は、本当に深い深い深い意味があると思います。
今回の朗読はいかがでしたでしょうか。
Voicyリスナーの皆様のお役に立てれば幸いです。
この後は2月19日のオンライン講演会のご案内、そしてコメントを読ませていただきます。
徳永康起（とくなが・やすき）
明治４５年熊本県生まれ。昭和７年熊本師範学校卒業後、教職の道へ。２２年３６歳の若さで小学校校長を拝命。２７年自ら降格願を出し、生涯一教師の立場を貫く。２９年初めて森信三師と出会い、人生の師と仰ぐ。４６年自ら退職願を郵送し、教壇を去った。５４年逝去、享年６８歳。森信三師の影響で始めた複写ハガキは、生涯で２万３千通にも及んだ。ハガキ道伝道者・坂田道信氏にその手ほどきをした人物としても知られる。
坂田道信 プロフィール
さかた・みちのぶ―昭和15年2月20日生まれ（旧名成美。）向原高校卒。昭和42年結婚。昭和46年8月森信三先生、徳永康起先生に出会い、「複写ハガキ」を教えられる。農業の合間に種々の日雇い職を経験。大工の名人に出会い、30才よりその見習いとなる。昭和50年10月一男二女を遺して 妻と死別。昭和57年夏「複写ハガキを書くことは道である」と開眼、「ハガキ道」を創始する。昭和60年桜井のぶ子さんと結婚。（のぶ子さんは後に宜穂と改名）平成5年道信と改名する。